結局、聡はバスケ部に残った。
インターハイ予選で、負けるところまでは付き合おう。ただしその間、瑠駆真は駅舎へは顔を出すな。
そんな条件に、瑠駆真はなぜ自分が出てくるのだと苦笑したが、その場の雰囲気で断れなかった。そこで我を押しても、何の得にもならない。むしろ子供っぽさが強調されて、美鶴に呆れられるだけだ。
ゆえに聡は、次の試合にも出場した。その会場の観覧席には涼木と……… そして瑠駆真と美鶴が――
「なんで私が行かなきゃならないワケよっ」
ブツクサと悪態をつく美鶴を、涼木と瑠駆真が必死に宥める。
「いいじゃないか。校内模試も終わったわけだし」
「そうそう。来週からは夏休みなんだからさ。たまには息抜きっ 息抜きっ」
応援に誘われた時、本当はドタキャンしてやろうと思っていた。だが、やはりと言うかなんと言うか、当日しっかり瑠駆真が家まで向かえに来た。
合鍵を使ってマンションの中まで入ってくると、休みなく鳴らされるチャイムの嵐。
根負けした。
鍵を使って部屋まで入ってこなかっただけ、マシと思うべきか?
―――― それは犯罪だ。
ってか、これじゃあ、瑠駆真はいつでも部屋に忍び込めるってワケっ?
冗談じゃないっっ!!
鍵は全部で四つあると聞いた。そのうちの一つは瑠駆真が持つ。
部屋の名義は瑠駆真の父親であるミシュアルになっているワケで、やはり何かあった時のために、本来はミシュアルも一つは持つべきだろう。だが彼は日本にいないので、代わりに…… というのが理由だった。
部屋を借りるという立場から反論もできないし、言われればそうかとも思っていた。だが今考えると、なんとなく不安だ。
機会を見て、鍵を取り上げるべきか、それとも部屋を出るべきか………
そもそも、何かあった時って、何なんだよ?
眉間に皺を寄せて頭を振る美鶴を連れ、ロッカールームへ向かう。
「おっ! マジ来てくれたのかよっ!」
顔を出すと、聡が嬉しそうに手を挙げる。当然入り口には聡目当ての女子生徒が押し寄せており、彼女らの視線を矢のように浴びながら滑り込んだ。
「お前が来てくれりゃあ、百人力だな」
「バカは単純」
美鶴の皮肉も聡は嬉しそうに聞き流し、身体をほぐす。
他の部員達はまだ来ていないようだ。時間ギリギリにご到着というのが常だから、蔦も聡も別に気にしない。
これでインハイ予選を勝ち抜いてきたとは、よほど予選のクジ運が良かったのか。
「こりゃあ、いいトコ見せなきゃな」
「アンタ、本当に役に立ってるの?」
「バカ言うなっ 俺って結構戦力だぜ。だから蔦が執着したんだろっ」
「信じられないわ」
「試合見れば、イヤでも信じるコトになるさ」
「僕としては、信じさせたくないんだけどね」
割って入るような瑠駆真の言葉に、聡は半眼でニヤリと笑う。
「悪いが、俺も遠慮する気はないんでね」
右手の人差し指と中指で、チョンチョンと口元を叩く。瑠駆真も思わず口元へ指を添える。
聡に殴られ切れた口元は、今はすっかり治っている。
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